ザ・バニシング ‐消失‐ を観た話
2020-08-15
Twitterか何かで見かけてずっと気になってた映画「ザ・バニシング‐消失‐」をレンタルして観てみました。
そもそもこの映画は1988年、
今から32年前に公開されたもので、
日本では未公開未発売だったらしく、
長い間知る人ぞ知る映画カテゴリーのものだったようです。
「ものだったようです」というのも、
正直90年生まれなので知識があるわけでもなく、探してもWikipediaのページすら見つからなかったので(リメイク版のページはありました)、
日本公開にあわせて最近作られた真新しい公式HPや宣伝記事から情報を得るしかないのが現状です。
その公式HPは、
「サイコ・サスペンス映画史上No.1の傑作、ついに解禁―」
とでかでかと書かれ、
「S・キューブリック監督 震撼」
「ロッテン・トマトで驚異の98%」
さらには著名人の推薦コメントを羅列したテンプレみたいなHPで、
「この映画本当に大丈夫かな・・・」
と若干の不安がよぎるものでした。
で、
実際観てみたところ、
エアコンの効いた部屋でスマホ片手にゲーミングチェアに横になりながら見ていたのですが、
終盤に差し掛かったあたりで「えっ」と起き上がり、
ラストで絶句してしまいましたよね・・・。
まず映画そのものを観ながらいろいろと想像や予想を張り巡らせるの過程で、
88年の映画という事は90年代のあの辺の映画やこの辺の映画は通過していない、
90年代に汚染されていない映画として考えるわけです。
となると「サイコ」系なんだろうな、
とか、
日本未公開だったという事はスプラッターの雰囲気ではないにせよ視覚的にドギツイものを用意しているのかもな、
とか、
そういうことを考えるのですが、
実際は大きく違うもので、
ド直球にキツイストレートな絶望ラストという
こんなん思いついても普通作るか?
と作ってる側の神経を疑う内容でした。
ここからは普通にネタバレとか無視して書いていくので、
「ちょっと観てみるかな」と思った人は黙ってゲオに行ってください。
いちおう付け加えますが、面白いよ!と他人に勧めるものではありません。
勘違いしてカップルで見たりはしないでください。
「ちょっと登ったことない山もたまには登ってみるかぁ」
くらいの感覚でみると良いです。
まず驚いたのが、
序盤から犯人視点のパートをじっくり書きながらどんでん返しが一切ないという事です。
犯人はごく一般的な良き父。
少なくとも僕の目には最後まで犯罪を犯すような闇を抱えた人物像には映りませんでした。
そんな父親が、日々誘拐の練習をし、それを実行に移そうとするも何度も失敗し、
「本当にこいつが犯人なのか?」と半分疑いながら鑑賞していたのですが、
ある日何度目のトライだったのか、
あらゆる偶然が重なり運命的に主人公の恋人は誘拐されてしまい、
マジでその父親が犯人のまま映画は終わりました。
日常に潜む悪というようなものだとは思いますが、
創作で書かれがちなそういう悪は、地下室に拷問部屋があったり、
戦利品として被害者の一部を所有していたりと、
わかりやすいサイコパス像を振りまいているのですが、
この父親はそういう素振りはほとんどなく、
普通に隣の家に住んでそうな変なリアリティを醸し出しています。
あと問題のラストで、
終盤になって犯人が主人公に接触することで話が大きく動くのですが、
加速するというよりは犯人の独白に切り替えるという感じで、
物語のペースが変わりません。
ここでああすればとかここでこうすればとか、
あらゆる可能性が目に付きながらもそのまま流されるようにラストに向かってしまいます。
犯人に接触された時に主人公が警察に突き出していれば、
国境を越えるときにひと悶着あれば、
白バイに止められたときに状況を説明していれば、
主人公が睡眠薬を飲まないで犯人をボコボコにしておけば、
でもそのどれを選択しても真相には辿りつきません。
真相への近道はとりあえず犯人の言うとおりに行動するしかない。
犯人から堂々と差し出された睡眠薬入りコーヒーを飲むしかない。
もしかしたら恋人は生きているのかもしれないし、
犯人が狂人で主人公はこのあとバラバラに切り刻まれるのかもしれない、
あまりにも犯人がノーガードすぎて、もしかしたら主人公を殺すつもりはないのかもしれない。
このあたりで残りの尺は約15分ほど。
き、気になる・・・!
どんなラストが待ってるんだ・・・
もう行くしかない・・・!
睡眠薬ぐびーっ
さあっ真相は!真相はなんだ!!
い、生き埋めぇ!!!!
無情
間髪入れず即抹殺です。
ようはこれが真相ということです・・・。
恋人は同じように生き埋めにされて、この世を呪いながら死んでいったわけです。
絶望の中ライターをつける主人公を観て、
ライアンレイノルズ主演のリミットを思い出しました。
主人公はこのまま死です。
物語終了。
終わり。
終わってみるとこの映画は後悔の映画でした。
犯人の最後の顔がこれです。
目が怖い。
正直知識が乏しいので、公式サイトを観ないと名前もわからない俳優さんなのですが(ベルナール・ピエール・ドナデュー 故人)、
めっちゃ良い顔だと思います。
この犯人は途中で「閉所恐怖症」であるという情報が出てくるのですが、
自分が閉所恐怖症でありながら生き埋めで殺すという、
悪意満載の殺し方をしているあたりが最悪ですね。
というわけで。
最後の15分くらいはもう好奇心でまんまと釣られて行って、
突然裏切られるような終わり方をしているのに、
近年ありがちなどんでん返しな終わり方ではなくドストレートに終わらせるという、
環境に害されていない深海魚のような映画で、
個人的にはこうやってキーボードを打つくらいには好きな映画でした。
でもたぶんもう二度と観ないですし、
他人にも勧めないので、
心のどこかに残っていく「後味悪い映画シリーズ」に名を連ねていくことになるのだと思います。
というわけで終わります。
お疲れさまでした。